
自動車ローン市場で、AIを武器に急成長するスタートアップが注目を集めている。ボストンに本社を置くLendbuzz(レンドバズ)だ。同社は2025年にIPOを申請し、時価総額15億ドル(約2,200億円)を目指している。従来の信用スコアでは「審査落ち」となっていた層に光を当てる、新しい与信モデルとは何か。
Lendbuzzとは
Lendbuzzは2015年創業のAI駆動型自動車ファイナンスプラットフォームだ。創業者のAmitay Kalmar CEOはイスラエル出身で、自身が米国に移住した際に「信用履歴がない」という理由だけでローンを断られた経験が創業のきっかけとなった。
同社のミッションは明確だ。「信用履歴がない、または薄い人々に公正な融資機会を提供する」こと。米国には約4,500万人の「クレジット・インビジブル(信用情報が存在しない人々)」がいると言われており、移民、留学生、若年層がその多くを占める。Lendbuzzはこの巨大な未開拓市場に挑んでいる。
独自のAI審査モデル「AIRA」
Lendbuzzの競争力の源泉は、独自開発のAIリスク分析エンジン「AIRA(Artificial Intelligence Risk Analysis)」だ。従来のFICOスコアに依存せず、以下のような多角的なデータを分析する:
- 銀行口座の取引履歴とキャッシュフローパターン
- 雇用状況と収入の安定性
- 居住履歴と生活基盤の安定度
- 教育歴や職業スキル
これらのデータをAIが総合的に評価し、従来の信用スコアでは見えなかった「真の返済能力」を可視化する。同社によれば、AIRAの導入により承認率が大幅に向上しながらも、デフォルト率は業界平均を下回る水準を維持しているという。
急成長の軌跡
Lendbuzzの成長スピードは目覚ましい。主要な指標を見てみよう:
- 資金調達:2023年に3億4,500万ドル、2024年にViola Creditから4億ドルのフォワードフロー資金を獲得
- 収益:2025年上半期で1億7,290万ドル(前年同期比38%増)
- 証券化実績:累計14億ドル超のABS(資産担保証券)を発行完了
- IPO申請:ティッカーシンボル「LBZZ」でNASDAQ上場を目指す
特筆すべきは、自動車ローンFintechとしては初のIPO候補である点だ。上場が実現すれば、AI与信モデルの有効性を市場が認めた象徴的な出来事となる。
「ExpressContract」で審査を高速化
Lendbuzzは2025年、新機能「ExpressContract」をローンチした。これは、ローン承認から契約締結までのプロセスを劇的に短縮する機能だ。
従来、自動車ディーラーでのローン手続きには数時間から数日を要することも珍しくなかった。ExpressContractでは、AIが申請情報を瞬時に分析し、適格な顧客には数分で承認を出すことが可能になる。ディーラーにとっては顧客体験の向上と成約率アップにつながり、Lendbuzzにとってはパートナーシップ拡大の武器となっている。
日本市場への示唆
日本のマイカーローン市場も変革期を迎えている。2024年度のオートローン信用供与額は前年比2.5%増の5兆6,617億円を記録し、比較可能な2013年度以降で過去最高を更新した(注3)。新車価格の上昇が主な要因とされるが、市場構造も複雑化している。
銀行系マイカーローンの金利は1〜4%、ディーラーローンは3〜6%と二極化が進む。2025年のマイナス金利政策解除を受けて全体的な金利上昇傾向にあり、残価設定ローン終了時の借り換え需要も増加している。
国内でもAI審査の導入が始まっている。京都銀行は2025年5月からマイカーローンを含む消費者ローンにAI審査モデルを導入。七十七銀行では住宅ローン案件の5割以上がAIで自動承認される体制を構築した。
Lendbuzzのモデルから学べるポイントは以下の通りだ:
- 未開拓市場の発掘:従来の審査基準で排除されていた層への新たなアプローチ
- オルタナティブデータの活用:銀行口座の取引履歴など、多様なデータソースの統合
- ディーラー連携の強化:ExpressContractのような即時承認機能による顧客体験向上
- 証券化による資金調達:AIローンの実績を裏付けとしたABS市場の開拓
今後の展望
自動車ファイナンス市場は2030年に4.8兆ドル規模に達すると予測されている。その中で、AIアンダーライティングの採用率は現在の14%から、今後3年で70%に急拡大するとの見方もある(Accenture調査)。
一方で、米国では自動車ローンの延滞率が上昇しており、サブプライム層の60日以上延滞率は6.65%と過去最高を記録。リスク管理の精度がこれまで以上に問われる局面だ。
Lendbuzzが掲げる「信用履歴なき人々への公正な融資」という理念は、AIの進化によって初めて実現可能になった。同社のIPOとその後の成長は、金融包摂とテクノロジーの融合がもたらす可能性を示す試金石となるだろう。
