AI活用審査「GiniMachine」が金融業界に与えるインパクトと今後の課題

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村田 大輔

AI技術が、今後のビジネスを大きく変革させることは間違いないでしょう。この変革の波は金融業界にも押し寄せており、与信審査や融資判断の手法が大きく変化しつつあります。特にAIを活用した融資審査は、従来の人間による審査と比較して、スピード・正確性・効率性において大きな可能性を秘めていると私は見ています。

私たちクラウドローンが目指すのは、「誰もが公平で透明な融資を受けられる社会」の実現です。そのためにも、今後の鍵を握るAI融資の可能性と課題について、詳しく解説していきたいと思います。

銀行審査もAI活用へ

私は以前、銀行勤務で審査のリアルな現場を見てきました。そこでは、顧客の年齢や職業、収入、資産状況をもとに審査が行われるのが一般的です。しかし、実際には担当者の経験や主観に左右されることも多く、判断にばらつきが生じやすいと感じていました。

さらに、申込書の受領から信用情報の照会、面談・書類確認、稟議といった一連の工程には、時間も人手もかかり、業務効率の面でも課題が多いと実感していました。

このような問題意識から、「これからはAIが審査の現場でも重要な役割を果たすのではないか」と考え、リサーチを進める中で出会ったのがノーコード型AI分析ツール「GiniMachine」です。このツールは、従来の審査では見落とされがちだった「個人の真の返済能力」を、AIによって客観的かつ的確に分析できるというもので、その革新性に私は大きな衝撃を受けました。

審査の効率化・自動化を実現

GiniMachineはリトアニア・ヴィリニュスに本拠を置くAI予測分析スタートアップです。2016年に設立され、2019年にはヨーロッパで最も有望なスタートアップのトップ20に選出されるなど、早くから高い評価を受けています。現在のところ事業展開はヨーロッパ中心で、日本にはまだ進出していませんが、今後の展開が期待されるサービスのひとつです。

ノーコード型AI分析ツール「GiniMachine」は機械学習モデルを活用し、オルタナティブデータ、たとえばSNSの利用状況やウェブ上の行動履歴なども加味して与信判断を行います。これにより、多面的かつ柔軟な審査が可能になります。

過去の融資データや顧客の行動履歴、信用情報など多くのデータを高速で分析し、融資可否や与信限度額、金利水準といった判断を自動化することができます。人の主観に左右されず、統一された基準で迅速に審査できる点は、大きなメリットだと私は考えています。

私が期待するのは、このようなAIモデルを用いることで、これまで信用履歴が浅いとされて融資を受けられなかった人の返済能力が適切に評価され、より多くの融資機会が生まれることです。

こうしたモデル構築には従来、高度なスキルを持つデータサイエンティストが必要でしたが、GiniMachineではわずか数時間、場合によっては数分で構築が完了します。実際、2024年には1,000万件のローン申請を処理し、承認率は30%向上、デフォルト率は25%削減という成果を上げています。

さらに、顧客の行動パターンを学習し、通常とは異なる動きや不審なトランザクションをリアルタイムで検知して、リスクを未然に防いだり、解約の兆候が見られる顧客を事前に把握し、早期に対応することで顧客維持率の向上にも寄与します。

説明責任にも対応

そして、私がこのツールを特に評価する点は、審査する側の「説明責任」にしっかり対応していることです。金融機関は融資判断について「なぜその結果になったのか」という理由を顧客にきちんと説明できないと、不信感を生み、信頼関係を損なう原因になってしまいます。

GiniMachineにはAIの判断根拠を可視化する機能が備わっており、どの要素がどの程度与信判断に影響したかを担当者が明確に説明できるようになっています。

AI活用の広がりとともに、こうした“見える化”の仕組みは、今後ますます重要になると私は感じています。

導入のハードルは高くない

「AI活用」と聞くと、どうしてもメガバンクのような大規模な開発体制を持つ金融機関だけの話だと思われがちかもしれません。私自身も最初はそう感じていました。

しかし、GiniMachineは、クラウドベースのSaaS型とオンプレミス型のどちらにも対応しているため、システム導入のハードルは非常に低くなっています。GiniMachineが日本でサービス開始した場合、日本の中小銀行や地方銀行にとっても、十分に現実的な選択肢になり得ると私は考えています。

実際、地方銀行では支店の統廃合や人員のスリム化が進み、効率化は急務です。そんな中でGiniMachineを導入することは、業務の合理化や人件費の削減にもつながります。中東欧のある銀行では、「不正検知モデルを1日で構築できた」「顧客離れを防ぐための施策がより的確になった」といった導入効果の声も上がっています。

今後の課題と期待

AI融資市場は今後も大きく成長する見込みです。2023年の877.1億ドルから、2036年には1.64兆ドルに達するとも予測されています。日本でも、三菱UFJ銀行やみずほ銀行がすでに住宅ローンや法人融資にAIを導入しはじめています。

一方で、情報漏洩やアルゴリズムバイアスといったリスクも存在します。過去の偏見に基づいたデータをAIが学習し、差別的な判断を下す可能性も指摘されており、これらへの対策は不可欠です。日本では特に「説明責任」や「公正性」に対する社会的要求が高く、AIの透明性や可視化の仕組みが普及の鍵を握ると考えています。

加えて、日本における課題としては、中小金融機関におけるシステム導入のハードルや、AIを活用できる人材・データ基盤の不足なども挙げられます。しかしながら、クラウド型・ノーコード型のAI分析ツールが登場したことにより、地方銀行やノンバンクなどでも導入が現実味を帯びてきました。

私たちが提供するクラウドローンでは、複数の金融機関から一括で融資提案を受けられる仕組みを提供して、審査や比較にかかる時間短縮を実現しています。今後はこうしたサービスと、AIを活用した与信分析・リスクスコアリングの仕組みを融合させることで、ユーザーにとってより精度の高いマッチングや、公平な融資の機会提供を可能にする世界を目指してまいります。

属人的な判断や非効率なプロセスといった金融業界が抱える課題に対し、テクノロジーを活用して効率化・自動化を進めている点で、GiniMachineとクラウドローンは目指す方向が共通していると私は考えています。私たちクラウドローンも、今後さらに、AI技術の健全な活用と、テクノロジーの力で金融の可能性を広げていきたいと思います。

注1) GiniMachine:AI自動意思決定プラットフォーム

注2) GiniMachine:AI自動意思決定プラットフォーム

注3)https://www.researchnester.jp/industry-analysis/ai-platform-lending-market/4663

注4)https://www.boj.or.jp/finsys/c_aft/data/aft250213a2.pdf

        https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/industry/pdf/msif_246.pdf